男と女の体力差を問題にしない理由

 
 今マフィア話を書いたりとか、強い女の話とかを書いていて思うのだけれど、良く男作家や、男に憧れる女が書く「強い女」描写では、体力差が問題にされることが多い。現代社会ではそんなでもなかろうが、歴史ものだったり戦争ものだったりすると、顕著だとも言える。
 私はあんまり気にしないで来たが、あんまり多いので一過言。
 
 ちなみにこの世で一番きつい仕事は、戦争稼業ではなく鉱山夫。
 12時間から20時間、暗闇と熱と酸素不足の穴で、岩壁を掘り出し、岩を運ぶ。危険で苦しく、体力的にも多分最大の仕事。日本では其処で働くのは男だけではなく、女も多かった。上半身裸で乳をほりだし、泥まみれで働く。生理中は草履を詰め、出産後も一時間で仕事に戻る。そういう生活を耐え抜いて、生き延びた女性が何百人もいた。
 トールキンで鉱夫をモデルにしたドワーフの女が、男と変わらない容姿とされたのも、こういった女達がホワイトカラーにとっては女の範疇に納まらないほど強すぎたためだろう。
 
 体力が男に劣る、というのは事実。
 が、女が弱い、というのは、流布された噂に過ぎない。というよりも、中世までは、女は酷使しても構わない下級の人間(ちなみに子供も「出来損ないの大人」であって、「子供」ではなかった)だったため、男以上に働かされ、同時に家事までやらされていたというのが、実情。女子供は中世までは人権が無かったから、子供の虐待もそれはそれは酷い。今の価値観では計れない闇だ。こういったことのせいで「女子供」の死亡率は非常に高かった。
 よく言われる、「昔、女子供は家の中にいて家事をして、男に守られていた。よって体力差は生まれたんだ」というような推測は、過去数十年程度の事で、そもそもそんな女子供は、裕福な男の脳内にしか居なかったのではないか?と思うほどだ。
 
 また、男装の女性に至っては、戦場で傭兵将校が死体になったので、埋葬しようとして服を脱がせたら女だった、という程に隠しきれる程度の事だった。船乗りにも男装者がまざって血で血を洗う喧嘩に参戦し、中国にも兄弟の代わりに出兵する姉妹の文献が残る。
 こういうことを知っていると、物語の中で女子の体力を問題にするのは、ある意味、ナンセンスにすら思えてしまう。現代人の体力で古代人を査定するのと同じ感じで。
 私だって、超人の女には興味が無い。
 けれども、筋力でなく体力を問題にして、モノガタリでの女性の力を制限するのは、かつて存在した何億人もの女性たちの歴史に、むしろ反してしまうのだ。
 
 ちなみにビジネス短大の保健体育講師に聞いたら、現在体力的に一番きつい仕事は看護婦だそうだ。離職率が高いはずだ!
 そしてマフィア列伝では、犯罪者は基本的に好きなときにしか仕事をしないので、体力描写ということが全然イラナイと書いていて分かったところ。